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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)266号 判決

河内銀行

理由

一、第一審被告伏見、高橋に対する請求について。

(一)、第一審原告の第一次的請求(消費貸借に基づく請求)について。

(証拠)を綜合すれば、昭和三二年一二月三一日、当時第一審原告の代表者理事であつた第一審被告堀井は、第一審原告が信用農業協同組合連合会から定期預金を担保に借受けた金二五〇万円を河内銀行に預金し、その預金のうえに同銀行のために質権を設定し、同日同銀行をして第一審被告伏見に金二五〇万円を融資せしめたこと、そして、この融資は第一審原告の事業とは全く関係なくしてなされたものであり、第一審原告がその組合員でない第一審被告伏見に対しては定款上融資できないためと、組合総会で決議した貸付限度額金二万円の定めに違反することになるために、右堀井、第一審被告伏見、河内銀行の担当者が合意のうえ、右のような方法をとつたものであるが、実質は第一審原告が第一審被告伏見に対して右金員二五〇万円を弁済期昭和三二年一月一五日、利息日歩六銭の約束で貸与え、この第一審被告伏見の債務に対して同高橋が同日連帯保証したものであること、そのため、第一審被告伏見は昭和三二年一月末日までの利息及び遅延損害金を第一審原告に持参支払つたこと、第一審被告伏見は右金二五〇万円をもつて同人の経営する土建業の人夫賃等の支払にあてたことを認めることができる。(なお、甲第一号証は第一審被告堀井との関係では、当審証人阪田幸一の証言によつて真正に成立したものと認められるので、右認定事実は第一審原告と第一審被告堀井との間においても全く同一に認定できる)以上の認定に反する甲第二号証の一(この成立の真正については原審証人木口茂弥の証言によつて認めることができる)の記載の一部、当審の堀井辰治郎本人尋問の結果、原審の被告伏見義治高橋正己(但し一部)各本人尋問の結果は、前記の認定に供した各証拠に照して措信しない。

第一審被告伏見、高橋等は、第一審原告のなした第一審被告伏見に対する右貸付は、員外貸付で、農業協同組合法九九条、「協同組合による金融事業に関する法律」四条、八条に照して無効であると主張するので、この点について判断するに、前記甲第六号証によれば、第一審原告は右、甲第六号証(大伴農業協同組合定款)の第一、二条所定の事業を行なうことをもつて組合の目的としその目的の範囲は、客観的抽象的に見て、これが定款所定の目的の逐行に必要であり得べきどうかによつて決すべきであるが、本件においては、前認定のとおり、第一審被告伏見は第一審原告の組合員でないばかりか、前記貸付は当時第一審原告の代表者理事であつた第一審被告堀井が第一審原告の目的事業とは全く、関係なくその定款に違反することを承知してなしたものであり、第一審被告伏見もまたこの事情を承知して借受けたものであるから、この貸付が組合の目的範囲内に属しないことは明らかであり、組合の基礎を危うくし、ひいては組合設立の目的にも反すのものである。従つて、右貸付行為は法律上無効であると解すべきであり、これが有効なることを前提とする第一審原告の請求は、その他の点について判断するまでもなく失当であつて、棄却せらるべきである。

(二)、第一審原告の第二次的請求(保証債務履行による、求償権に基づく請求)について。

前記金二五〇万円は第一審原告が第一審被告伏見に対して貸付けたものであることは前認定のとおりであるから、右金員を第一審被告伏見が河内銀行から借受けたことを前提とする予備的請求もまた理由がない。

(三)、第一審原告の第三次的請求(不当利得に基づく請求)について。

第一審被告伏見が第一審原告から、昭和三一年一二月三一日金二五〇万円を借受け、その金員をもつて同人の経営する土建業の人夫賃等の支払をなしたものであることは前認定のとおりであり、そして、右貸付行為は前説示のとおり法律上無効であるから、結局第一審被告伏見は法律上の原因なくして、第一審原告の財産により昭和三一年一二月三一日金二五〇万円の利益をうけ、これがために第一審原告に金二五〇万円の損失を及ぼしたものであり、そして、第一審被告伏見は前認定のとおり前記貸付行為が農業協同組合法及び第一審原告の定款に反することを知つて金二五〇万円の金員を第一審原告から受領したものであるから、法律上の原因のないことを知りながら、金二五〇万円を利得したものというべきである。従つて、第一審被告伏見は悪意の受益者として右金二五〇万円に利息をつけて返還すべきである。ところで、前記甲第一号証記載の利息及び延滞損害金の約定が不当利得の場合の利息についての約定にあたらないことはその記載自体から明らかであり、その他には不当利得の場合についての利息の利率を特約したと認めるに足る証拠はないから、その利率は民法四〇四条により年五分である。

従つて、第一審被告伏見は第一審原告に対して、金二五〇万円及びこれに対する受益の日である昭和三一年一二月三一日から支払済にいたるまで年五分の利息を支払うべきである。そうすれば、第一審原告の第一審被告伏見に対する不当利得に基づく請求は、金二五〇万円及びこれに対する昭和三二年二月一日以降支払済にいたるまで年五分の利息の支払を求める限度においては理由があり、その余は失当である。

二、第一審被告堀井に対する請求について。(省略)

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